怪我したときには冷やすの?温めるの? ― 科学的根拠から考える最適な対処法

スポーツ中の捻挫、転倒による打撲、筋トレ後の痛み…。私たちの生活の中で「怪我」は突然起こります。その際、よく議論になるのが「冷やすべきか、温めるべきか」という問題です。両者はどちらも痛みを和らげる手段として知られていますが、使うべき場面を間違えると治癒が遅れることさえあります。本コラムでは、医科学的根拠を踏まえ、一般の方でも判断しやすい形で解説します。


■ まず理解すべきは「怪我の時期」

怪我は大きく急性期・亜急性期・慢性期の3段階に分けられます。これを理解することで、冷やすべきか温めるべきかの判断がスムーズになります。

● 急性期(0〜72時間)

組織損傷により血管が傷つき、炎症反応が活発になります。腫れ、熱感、赤み、鋭い痛みが特徴で、まさに身体が損傷部位を修復しようと奮闘している状態です。この時期の目的は「炎症をコントロールし、悪化させないこと」です。

● 亜急性期(3日〜2週間)

炎症反応が徐々に収束し、組織修復が進み始める時期です。痛みは残るものの、腫れや熱感は低下します。この段階では「積極的に回復を促す処置」が必要になります。

● 慢性期(2週間以降)

組織が再生され、日常生活動作が徐々に可能になりますが、筋緊張や可動域制限が残ることがあります。ここで適切なケアを行うことで、再発防止へとつながります。


■ 怪我直後は「冷やす」が鉄則

急性期にはアイシングが最適です。冷却は血管を収縮させ、腫れや炎症を抑制します。また、神経の伝達速度を低下させ、鎮痛効果も得られます。

● 冷却のポイント

  • 1回 15〜20分
  • 皮膚の感覚が鈍くなりすぎない範囲で行う
  • タオルを挟むなどして凍傷を防ぐ

冷やしすぎは血流を極端に低下させ、かえって回復を遅らせる可能性があるため注意が必要です。


■ 腫れが引いてきたら「温める」が回復を促す

炎症期を過ぎた亜急性期以降は、温熱療法が適応となります。温めることで血流が促進され、損傷組織への酸素供給や老廃物の排出が進み、筋肉や関節の動きが改善します。

● 温熱のポイント

  • 入浴、蒸しタオル、ホットパックなどを活用
  • 10〜30分程度が目安
  • 熱感や腫れがまだ残る場合の加温は避ける

■ ありがちな誤解と注意点

❌「痛いなら温めれば治る」
→ 急性期に温めると、炎症が悪化するリスクがあります。

❌「痛みがあるうちはずっと冷やす」
→ いつまでも冷却すると血流不足により治癒が遅延します。

⭕「状態に応じて使い分ける」
→ 症状を観察し、炎症の有無を判断することが重要です。


■ まとめ:判断の目安

状態症状対応
0〜3日腫れ・熱感・鋭い痛み冷やす
3日以降熱感が落ち着き、動かすと痛い温める
慢性痛・コリ張りや可動域制限温める+運動

■ 最後に

怪我への対応は単純なようでいて、身体の生理反応に基づいた適切な判断が求められます。「冷やすか、温めるか」という選択は症状の経過を理解することで、より正確に行えるようになります。もし判断に迷う場合は、医療機関や理学療法士に相談することが最も確実です。