「痛くない=治っている」の解釈は危険?―痛みと回復の本当の関係

怪我や身体の不調が起きたあと、「もう痛くないから大丈夫」「痛みが消えた=治った」と考えた経験は多くの人にあるでしょう。しかし、この考え方は必ずしも正しくなく、場合によっては再発や悪化の原因になることがあります。本コラムでは、痛みの正体と回復のメカニズムを学術的根拠に基づいて解説し、「痛くない=治っている」という解釈の危険性について分かりやすく説明します。

■ 痛みは「組織の状態」をそのまま反映しない

まず理解すべきなのは、痛み=組織損傷の大きさではないという点です。痛みは脳が作り出す感覚であり、末梢組織の状態だけでなく、神経系や心理的要因、過去の経験など多くの要素に影響されます。

IASP(国際疼痛学会)は痛みを
「実際または潜在的な組織損傷に関連する不快な感覚・情動体験」
と定義しています。つまり、組織が完全に修復されていなくても、痛みが消失することは十分に起こり得るのです。

■ 痛みが消える「理由」は一つではない

怪我のあとに痛みが軽減・消失する理由には、以下のようなものがあります。

〇炎症反応が落ち着いた

〇神経の興奮性が低下した

〇動作を無意識にかばうようになった

〇鎮痛薬や湿布の影響

〇脳が「危険ではない」と判断した

これらは必ずしも組織修復の完了を意味しません。たとえば、靭帯や腱は筋肉よりも血流が少なく、修復に数週間〜数か月を要しますが、痛み自体は比較的早期に消えることが知られています。

■ 「痛くないのに再発する」理由

スポーツ現場や臨床でよく見られるのが、
「痛みが消えたから復帰 → 再受傷」
というパターンです。

これは、組織強度や機能が回復する前に負荷をかけてしまうことが原因です。組織の治癒には以下の段階があります。

〇炎症期

〇修復期

〇リモデリング期(組織が強く再構築される段階)

痛みが消えるのは②の途中であることが多く、③が完了していない状態で元の動作に戻ると、再び損傷しやすくなります。実際、筋・腱損傷において「早期復帰」が再発率を高めることは多くの研究で報告されています。

■ 慢性痛では「痛い=壊れている」わけでもない

一方で、慢性痛では逆の誤解も起こります。
「痛いから、まだ壊れている」
という考えです。

慢性腰痛や肩こりなどでは、画像検査で明確な損傷が見られなくても痛みが続くケースが多く、これは中枢神経の感作(痛みに敏感な状態)が関与していると考えられています

つまり、

痛くない=治っている → 必ずしも正しくない

痛い=壊れている → 必ずしも正しくない

この両方を理解することが重要です。

■ 本当に見るべき回復の指標とは?

回復を判断する際に重要なのは、痛みの有無だけでなく以下の点です。

〇関節可動域は左右差なく動くか

〇筋力・持久力は回復しているか

〇動作に不安や代償がないか

〇翌日に痛みや腫れが増悪しないか

〇理学療法やスポーツ医学の分野では、「機能の回復」が復帰判断の重要な指標とされています。

■ まとめ

「痛くない=治っている」という考えは、分かりやすい一方で危険をはらんでいます。痛みは回復の一指標にはなりますが、唯一の基準ではありません。組織の治癒と機能回復には時間差があり、そのギャップを理解することが再発予防につながります。

痛みが消えたあとこそ、身体の状態を冷静に評価し、必要に応じて専門家の助言を受けることが、安全で確実な回復への近道と言えるでしょう。