姿勢と腰痛の関係を科学的に考える
腰痛対策として「姿勢を正しくしましょう」「座り方を改善しましょう」と言われることは多い。デスクワークの人なら、一度は背筋を伸ばして座るよう注意された経験があるだろう。しかし、実際のところ、座り方を改善することは腰痛にどれほど効果があるのだろうか。科学的な研究結果をもとに考えてみたい。
まず知っておきたいのは、長時間座ること自体が腰に負担をかけるという点である。座っているとき、腰椎の椎間板には立っているときよりも高い圧力がかかることが古くから知られている。特に背中を丸めた姿勢では、腰の後方組織や椎間板にかかる負担が増加する。つまり、「悪い姿勢で長く座る」ことは腰にとって好ましくない。
しかし近年の研究では、姿勢の良し悪しだけで腰痛の有無が決まるわけではないことも分かってきている。大規模な疫学研究やレビュー論文では、「猫背だから必ず腰痛になる」「良い姿勢なら腰痛にならない」といった単純な関係は確認されていない。姿勢が悪くても腰痛のない人は多く、逆に姿勢が良くても腰痛に悩む人もいる。
では、座り方の改善は意味がないのだろうか。答えはそうではない。現在の研究では、問題は姿勢そのものより“同じ姿勢を続けること”にあると考えられている。どれだけ理想的な姿勢でも、長時間動かずにいると筋肉の疲労や血流低下が起こり、腰の不快感や痛みが生じやすくなる。
つまり、腰痛予防において重要なのは、「完璧な姿勢で座り続ける」ことではなく、姿勢をこまめに変えることなのである。
実際、職場での研究では、スタンディングデスクの導入や、定期的に立ち上がって動く習慣を取り入れたグループでは、腰痛や身体の不快感が軽減する傾向が報告されている。また、座位中に骨盤を軽く前後に動かしたり、背もたれを使って姿勢を変えるだけでも筋肉の負担が分散される。
では、「良い座り方」とは何だろうか。近年では、一つの正解姿勢よりも、楽に座れて、すぐ動ける姿勢が推奨されることが多い。目安としては、
・骨盤を立て、背もたれを軽く使う
・足裏が床につき、膝が約90度になる高さに調整する
・画面を目線の高さに近づけ、頭が前に出すぎないようにする
・30〜60分ごとに立ち上がる
といった点が挙げられる。
重要なのは、「姿勢を固定する」のではなく、「姿勢を変えられる余裕を作る」ことだ。人の体は本来、動き続けるようにできている。同じ姿勢を強いられること自体が腰へのストレスになる。
結局のところ、座り方の改善は腰痛に対して一定の効果を持つが、それだけで解決するわけではない。運動習慣、筋力、ストレス、睡眠、仕事環境など、多くの要素が腰痛には関与している。
もし腰痛対策として何か一つ始めるなら、「良い姿勢で座ること」よりも、まずはこまめに動く習慣を作ることが、科学的にも現実的にも最も効果的な第一歩と言えるだろう。


