なぜ筋肉痛は「遅れて」やってくるのか

「若い頃は運動した翌日に筋肉痛が来たのに、最近は2〜3日後に来る」
こうした話は、年齢を重ねた人ほどよく口にする。しかし、筋肉痛が遅れて起こるのは本当に“年齢のせい”でしょうか。実はこの現象には、長年にわたる運動生理学・神経科学の研究が積み重なっている。

筋肉痛の正体は「遅発性筋肉痛(DOMS)」

一般に運動後しばらくして現れる筋肉痛は、「遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness:DOMS)」と呼ばれる。DOMSは、運動直後ではなく12〜24時間後から始まり、48〜72時間でピークを迎えることが多い。特に、階段を下りる、ブレーキをかけながら動くといった「筋肉が引き伸ばされながら力を出す運動(伸張性収縮)」で強く生じやすいことが知られている。

かつては「乳酸が溜まるから筋肉痛になる」と考えられていたが、これは現在では否定されている。乳酸は運動後速やかに代謝され、数時間以内に消失するため、数日後に起こる痛みを説明できない。

微細な損傷と炎症が“時間差”を生む

現在、最も広く受け入れられている説明は、筋線維や結合組織に生じる微細な損傷と、それに続く炎症反応である。強い運動により筋肉には目に見えないレベルの損傷(microtrauma)が起こる。これ自体は運動直後から存在するが、痛みとして自覚されるまでには時間がかかる。

その理由は、損傷部位に免疫細胞が集まり、炎症性物質や神経成長因子が放出される過程にある。これらの物質が痛覚神経を刺激し、脳に「痛み」として認識されるまでには、数十時間という時間差が必要なのだ。つまり、筋肉痛が遅れて現れるのは「体が修復を始めた結果」とも言える。

「筋肉」よりも「神経」が原因?新しい仮説

近年では、DOMSの原因を筋肉そのものではなく、感覚神経の微細な損傷に求める新しい理論も注目されている。筋肉の動きや張力を感知する筋紡錘内の感覚神経が、過度な伸張性負荷によって障害を受け、その機能変化が時間をかけて痛みとして表出する、という考え方だ。

この理論では、痛みが遅れる理由を「神経の機能異常が進行・顕在化するまでの時間」として説明できる点が特徴的である。筋損傷が軽微でも強い筋肉痛が出る場合があることも、この神経仮説はうまく説明する。

年齢が上がると筋肉痛は遅くなるのか?

では、「年を取ると筋肉痛が遅れる」という通説は正しいのだろうか。意外なことに、年齢が高いほど筋肉痛の発生が遅れることを直接示した明確な科学的証拠は多くない。むしろ、研究によっては若年者の方が筋肉痛を強く感じる場合もある。

ただし、加齢によって回復過程が遅くなることはよく知られている。炎症が長引きやすく、組織修復に時間がかかるため、「痛みのピークが後ろにずれた」「気づいた時には数日経っていた」と主観的に感じやすくなる可能性はある。また、日常的な運動量の違いによって、筋肉への刺激の“慣れ”が変わることも影響しているだろう。

筋肉痛は悪者ではない

筋肉痛はつらいが、それ自体は必ずしも悪いものではない。DOMSは、体が新しい負荷に適応しようとしているサインでもある。適切な休養と栄養を取れば、筋肉は以前より強く、効率的に使えるようになる。

「筋肉痛が遅れてきたから年のせいだ」と嘆くよりも、「体が時間をかけて修復している証拠」と捉える方が、科学的には正しいのかもしれない。